[監修]山内 泰介(医療法人山内クリニック 理事長・医学博士)

女性に多い甲状腺の病気

甲状腺ホルモンとは

甲状腺は、喉仏の下にある、チョウが羽を広げたような形をした小さな臓器。この甲状腺で作られる甲状腺ホルモンは、全身の臓器や細胞の代謝を促進・調整する作用があり、脈拍数や体温、自律神経の働きを調節し、エネルギーの消費を一定に保っています。通常、その分泌量は脳にある下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンによって調節されています。

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甲状腺ホルモンと妊娠

甲状腺ホルモンの異常を知らずに妊娠すると、自分自身の健康障害だけでなく、胎児の発育不全や流産・早産などのリスクも上がります。妊娠を希望する人や妊娠中の人で甲状腺の病気が疑われる場合には、甲状腺専門医による適切な診療が不可欠です。

代表的な甲状腺の病気と症状

甲状腺ホルモンが過剰に作られる病気を「甲状腺機能亢進こうしん症」、甲状腺ホルモンの分泌が減って足りなくなる病気を「甲状腺機能低下症」といいます。中でも、代表的なものが「バセドウ病」と「橋本病」です。本来抗体は自分の体を守る働きをしますが、バセドウ病と橋本病は、自分の甲状腺に対してできた自己抗体が甲状腺に影響して発症します。

バセドウ病 橋本病

セルフチェックで早めに気付く

腫れやしこりなどの異常がないか、鏡で見る、触れてみるなどのセルフチェックを心がけましょう。また、体調に気になる変化があったら、医療機関を受診しましょう。

見て・触れてチェック
□しこりがないか
□腫れがないか
体調の変化を
見逃さない
□疲れやすい
□急に寒がりまたは
暑がりになった
□手の指や足が
震える

など

知っておこう!甲状腺の病気と間違われやすい病気

甲状腺の病気による自覚症状は個人差があり、「甲状腺が腫れる」ということ以外は、甲状腺に特有の症状ではありません。そのため、他の病気と間違われたり、原因が分からずにさまざまな診療科にかかったりすることもあります。

甲状腺の病気と
間違われやすい病気
症状
更年期障害 発汗、無気力になる、動悸、息切れ、疲れやすい
うつ病 疲れやすい、落ち込み、不安感
認知症 物忘れが多い
心臓病などの循環器疾患 動悸、脈が速くなる、めまい
消化器系の病気 軟便・便秘、体重の増減

気になる症状があったら、まずはかかりつけ医に「甲状腺の病気が心配」と相談を。必要に応じて、専門医を紹介してもらおう。

甲状腺の検査・治療って?

甲状腺のホルモン値・自己抗体などを測る血液検査と、甲状腺の大きさ・形を調べる超音波検査が一般的。治療法は、それぞれの病気・症状によって異なります。特に女性に多い「バセドウ病」や「橋本病」は、長期的な診療が必要となるので、定期的に受診することが大切です。

バセドウ病・橋本病の主な治療法

バセドウ病の治療

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるバセドウ病は、主に3種類の治療法があります。

  1. 薬による治療
     抗甲状腺薬で、甲状腺ホルモンの過剰な分泌を抑えます。薬が効きにくい、副作用が生じるなどの場合には、別の治療に切り替えることも検討します。
  2. 放射性ヨード内用療法(アイソトープ治療)
     口から摂取したヨード(ヨウ素)が甲状腺に集まる性質を利用した治療法です。放射性ヨードを使うので、妊娠中・授乳中・18歳以下の人には行われません。
  3. 手術
     甲状腺がかなり大きくなっている場合や早く治したいときなどには、甲状腺を取り除く手術を行います。

橋本病の治療

橋本病は成人女性の約10人に1人の高頻度で見つかる病気ですが、甲状腺機能が低下してくる人は30%程度といわれています。甲状腺機能の低下が持続するときには、甲状腺ホルモン薬で補う場合もあります。

橋本病になっても、甲状腺機能が正常な場合には、原則治療は必要ありません。ただし、将来甲状腺機能が低下してくる可能性があるので、経過観察が必要です。自己判断で受診を控えたり、先延ばしにしたりすることなく、定期的に受診をしましょう。

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